販売員時代の話だ。
我々には販売以外にも仕事があった。
非常に重要なことだ。
だが、特別なことではない。
全ての販売員が常日頃からやらねばならぬことである。
ケース①
たまたま店内の死角を通った時、
必死になってバッグに商品をギュウギュウ詰め込んでいるお客さんとバッタリ遭遇した。
突然の店員の登場に驚いたのだろう。
バッグに物を押し込む手を止め、固まっている。
お互いに呆然としていたが、先に我に戻った私はにこやかにカゴを渡して
「何かお手伝いできることはありませんか?」と聞いた。
だが、何とも歯切れの悪い返事が返ってくるばかりだ。
商品を全てカゴに入れてもらおうとしたらもー凄い。
小さいバッグからクシャクシャの商品がジャンジャン出てくる。
「なんだこりゃドラ◯もんのポケットか!?」と思った。
わんこそばのあのかけ声でもかけたいくらいだった。
結局レジを通過するまで張り付き、きちんとお買い上げしていただいたので問題はない。
何も起こらなかったのだから。
しかし「何を」とは言わないが、未然に防ぐことは抑制になると信じて声をかけるのは大事だ。
ケース②
ある不審な行動を取るお客さんが来た。
近くにいる店員全員に同じ要求をし、その場を離れるように促してくるのだ。
誰も居なくなったらその間に何がしたいのか。
代わりの者を配置して対応するが、やはりその場に誰も居なくなってほしいようで再三同じ要求をしてくる。
別の店員が対応している旨を伝えると、めげずに今度は別の要求をしてくる。
だがこちらは情報を共有しているので、最早その場を離れる必要がない。
1人のお客さんに対して店員さんに3人も4人も接客させようなんてどこの王様か。
しまいには何も買わずに帰られた。
お探しの商品が見つからなかったのだとしたら残念だ。
こちらとしてはそんなにグイグイくる人は初めてだったので焦った。
ケース③
ハンガーにかかっている服がやけにモッコモコなものを持ってきて「試着したい」と声をかけてきたお客さんがいた。
最初「1点でよろしいですか?」と聞いたら「そうだ」と答えたが、変だ。
商品を預かろうとするとやけに嫌がったのだが、規則なので少々強引に受け取りハンガーを取ろうとしたところ急に「いや、2点あるから!2点!」と慌てだした。
確認したら無理矢理2着のコートが1つのハンガーにかけられていた。
試着室で何をしようとしたのかは存じ上げない。
けれど、当店には不格好なモッコモコのコートなど売っていないのだ。
異変を感じるのは当たり前である。
最近の防犯傾向
そう、店員は意外と見ているのだ。
それに昔はダミーの防犯カメラもあったが、
本物を比較的安く購入できるようになった今ではきちんと作動しているものも多い。
「光ってないし動いてないから偽物だ!」という噂も今はもう当てはまらない。
バッチリ映っているのだ。
販売員さん達は日々のお仕事の傍ら、万引きGメン的な役割を担っている。
万引き行為をした人間が捕まるのは当たり前だ。
しかしお客さんのフリをして来店してくる人をお客さんのままでいさせてくれることもある。
もちろんそれは優しさなどではない。
それが抑止力になることを信じているのだ。
そうなればブラックリストには載るが「あなたのことを見ていますよ」ということが伝われば思い留まる人もいる。とお巡りさんも昔言っていた。
罪を犯して捕まっても再犯する人もいるし、事前に食い止めたことで二度と過ちを犯そうとしなくなる人もいる。
どうなるかは本人次第ではあるが、販売員さんは今日も今日とてお客さんを優しく迎え入れてくれるのだ。
作成者
目つきが悪くクマも酷いせいか、しょっちゅう店員さんにマークされてしまうあかね
ちょっと悲しい。